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コーポレートストラテジー

【対談後編】お客さまと共に、イノベーションで次の時代の扉を開く(Forbes JAPAN Web編集長 谷本有香氏xニコン社長 馬立稔和)

【対談後編】お客さまと共に、イノベーションで次の時代の扉を開く(Forbes JAPAN Web編集長 谷本有香氏xニコン社長 馬立稔和)

私たちニコンは、100年以上の歴史を通して人と機械との共創関係を紡いできました。そしてこれからの未来において、人と機械の距離をさらに縮め、共創から生まれる新たな価値を社会に届けていく使命があります。そんな想いを込めて、私たちは2030年のありたい姿として、「人と機械が共創する社会の中心企業」と掲げました。そしてその実現に向け、2025年までの中期経営計画を策定し発表しています。

今回は3,000人を超える世界のVIPにインタビューをした経験を持ち、企業の事業創造および変革にも深い知見を持つForbes JAPAN 執行役員Web編集長の谷本有香氏にご協力いただき、ニコン代表取締役社長 馬立稔和との対談を通して、「人と機械が共創する社会の中心企業」への想いと構想を紐解いていただきました。主に、2030年に向けた企業の方向性と事業にフォーカスした前編に続き、後編では主にパートナーシップ・人材関連の構想についてご紹介します。

前編はこちら

お客さま起点でニーズを把握し、ソリューションを提供していく

谷本:私自身、グローバルに拠点を持つメディアで働いていますが、日本の中で冠たる御社のような企業が、より一層世界の方たちに認めてもらい、日本発がさらに広がっていくといいな、と心から思っています。そのために、日本が勝ち筋として残すべきものはどのようなところなのでしょうか?現場力は日本の強さだと思いますし、海外の人たちにお話をうかがうと、「アイデア力」が強いとおっしゃる方もいる。それらを融合していくと、日本の強みがより一層出てくるのだと思っています。馬立社長は、私たちが残していくべき強みと、付加していくべき箇所をどのようにお考えでしょうか。

馬立:日本の良さは厳然としてあります。特に日本人は、ものを着実に作り、開発過程を改善し、それを洗練されたものにまで高めていくことを得意としています。その特徴はしっかり維持し、さらに高めていく必要があるでしょう。

一方、お客さま視点で弊社を考察してみると、お客さまが必要、あるいは欲しいと思われるものの本質を捉え、それらをまとめてご提供することにはあまり長けていないかもしれません。今後は、完成品を売るだけというプロダクトアウト的発想から脱却し、お客さまに寄り添い、そのニーズを的確に把握し、完成品・コンポーネント・サービスを一体でソリューションとして提供していくことが必要です。そのためには、グローバル的な考え方、あるいはまとめ方をしていく必要があるでしょう。私たちニコンは、そういったグローバルな視点を強化し、お客さまに「すごい」と喜んでもらえるものを生み出していきたいと考えています。

谷本:御社の製品は愛好家がたくさんいらっしゃって、プロの方たちが好んでお使いになられていますので、これまで多くのデータが蓄積されているのではないでしょうか?そういったデータを活用できる素地はものすごくあるような気がします。

馬立:確かに弊社にはいろいろな蓄積や経験があります。ただし、すべてコンピューターの中に整理されて入っていて、キーボードを叩くと出てくる、という状況になっていないのが、弊社の面白いところでもあり、問題点でもあります。

さきほど「人と機械」と申し上げましたが、弊社は人の部分の比重が非常に大きい。プロフェッショナルな社員が持っている知識や経験をすべて整理してデータベースに入れることができるかというと、原理的にはできても、やはり人の知識はモデル化できない部分もあります。そういう人間ならではの部分は、やはり人が活かして伝承していく。あるいは、社員がそれぞれに経験して積み上げていく必要があります。そして共有すべきものはコンピューター上において、ネットワークを介して社員全員がアクセスできるようにする。ここでも、人と機械のベストなコンビネーションを考えていくべきだ、と思います。

最近、私は人間の脳の働きに興味を持って勉強をしていますが、やはり人間の脳の能力は、これからも非常に重要な位置を占めていくと思います。それを拡張する形で、コンピューターなどの機械がある、というイメージで取り組んでいきたいと思います。

既存の枠組みを超え、多様な業種の企業と共創していく

谷本:今後さらに事業が多様化、多角化していくなかにおいて、従来お付き合いをされていた業界以外の方たちとも共創していくことが必要になると思います。さきほど、馬立社長は脳の分野の勉強をされているとおっしゃっていましたが、今までとは別の業界・領域の企業と組むことによって生まれる可能性についてはどうお考えでしょうか?

馬立:弊社は不思議な会社で、「今までなかった、こういうものを作ってください」と言われると、できてしまう会社です。そういう能力には非常に長けていますが、やはり現在の時間感覚、あるいは同時にさまざまなことに対応しないといけないとなると、弊社だけでできることは限られています。だからこそ多様な企業とパートナーシップを組む、あるいはアカデミアと連携するといったことが、非常に重要だと認識しています。

特に光学メーカーや機械メーカーだけではなく、これまではお付き合いがなかったような業種の企業とも共創することが求められるでしょう。最近では航空会社様との取り組みを進めていますが、今後も他企業との共創関係を築いていきたいです。

多様性に富んだ人材が活躍する企業へ

谷本:やろうと思ったら、できる人が社内にたくさんいることは、すばらしいと思います。アイデアが多くあり、それを開発・実装できる人たちがいるというのは、理想的な企業のあり方だと思いますし、Z世代・α世代こそ、そういう企業に入りたいと思う人は多いと感じています。そういった社員たちを大事にしつつ、新しい時代に即するように人材を育成、もしくは開発していくと考えると、どういった要素が必要だとお考えですか?

馬立:弊社にはじっくりいろいろなことに取り組む人間がたくさんいることが強みです。ただ、「2030年のありたい姿」を実現していくためには、やはり人材をどう創出するか、あるいは獲得するのかは、最も重要なキーになると思っています。

もちろん光学や精密機械のエキスパートは社内に多くいますが、今まではそれ以外の領域にはあまり手を広げてきませんでした。ですから社員にはより視野を広げて、いろいろなものに興味持ってもらい、専門領域を広げてもらいたい。そして潜在能力のある人材を、まずは社内から発掘していきたいです。

もちろん、それだけでは十分ではないので、外からも広く募集し、採用数も2022年度は前年度比で倍増、引き続き強化していきます。

谷本:今後、どんな人材を採用していく予定でしょうか?

馬立:多様性に富んだ、さまざまな人にきてほしいですね。プロフェッショナルな方、広い視野で仕事ができる方、情熱を持って仕事に取り組む方、地道にコツコツ仕事を進める方など、と一言では言い表せません。

ただ、「この分野のプロフェッショナルだ」というだけでは、少し物足りなさがあります。例えば財務に関しても、特に現在はM&Aに力を入れています。法律に関してもテクノロジーに関する案件が多いので、そういった知識も非常に重要です。何かひとつに特化した方だけでなく、さまざまな知識や能力を持った方も、それぞれに活躍できる場がニコンにはあるはずです。

世の中にインパクトを与え続けてきた企業として、これからも未来の扉を開いていく

谷本:2030年に向けて、100年以上の歴史を持つニコンが変わっていくとしたら、どう変わっていくのでしょうか?また変わらないものはなんでしょうか?

馬立:弊社の社員は非常に真面目で正直で、物事に真摯に取り組む人が多いです。例えば、レンズを磨くのは根気のいる作業ですよね。このような物事に取り組む姿勢によって弊社の基本的な技術は育まれてきたので、この姿勢はこれからも大事にしたいと思います。一方で、社員たちがもっと外へ出て、広く世界を知り、面白いものを見つけてチャレンジできるよう働きかけていきたいですね。

最近はZ世代を中心に、本質を見極めたい、意味のあることをしたい、と考える人たちが増えてきていると感じています。そういう人たちがチャレンジできるように、現在、組織編成も含めたさまざまな検討をしているところです。「今までそんなことはしてこなかった。無理だ」と限界を決めるのではなく、新たな発想をどんどん取り込める軸を作っていきたいと考えています。

谷本:すでに評判という意味においては100年以上のすばらしい歴史があって、ニコンというブランドには伝統も信頼も信用も、もちろん絶対的な技術もあり、すべてがその中に凝縮しているような気がします。そこで2030年、「人と機械が共創する社会」の中で、今回のお話の中にもあったウェルビーイングなのか、それとも「豊かさ」なのか、どのような要素を加えていくことが必要だとお考えでしょうか?

馬立:うちのブランドの元はなんだろうと、自分なりに考え込んだことがあります。皆さんにとって「ニコン」とはカメラのブランドというイメージが大きいでしょう。でも実は歴史を紐解くと、弊社はそれまでなかったものを作って、それが世の中にインパクトを与えてきたという歴史があります。例えば昔はカメラの中に入れるフィルムは手動で巻き上げる必要がありました。それが弊社の技術によって初めて、モーターが自動的にフィルムを巻き上げることができるようになり、結果として写真が連続で撮れるようになりました。そのようなイノベーションを経て、「ニコンってプロが使うのにいいよね」と評判になっていきました。さらに半導体の露光装置事業を1980年代に始めましたが、これによって生み出された製品が半導体をどんどん小さく高密度にし、半導体の進展やコンピューターの進歩、省エネにも貢献しました。

他にも顕微鏡で見えなかったものを見えるようにするなど、節目節目で社会にとって大きな扉を開くものを生み出してきた歴史があります。

こういう歴史を経て、私たちの役割はイノベーションを通じて、お客さまと共に次の扉を開くことだと感じていますし、それができる企業だとも思っています。2030年の未来に、「ニコンのこのイノベーションが時代の変化に大きく貢献したのだ」と社会からも認めてもらえるように歩みを進めていきたいと思いますし、そういった取り組みを通してニコンのブランドをより強くしていきたいですね。

前編はこちら

※所属、仕事内容は取材当時のものです。