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クオリティオブライフ(QOL)

バイオサイエンスや創薬分野の進歩に貢献。ニコンの次世代を担うヘルスケア事業の現在地

バイオサイエンスや創薬分野の進歩に貢献。ニコンの次世代を担うヘルスケア事業の現在地

1925年にニコン設計による初の顕微鏡「JOICO」の発売以来、約100年に渡り進化し続けてきたニコンの顕微鏡技術。そして、ニコンが長年培ってきた「細胞を観察し、評価する」という技術やノウハウが今、バイオサイエンス研究や創薬分野の進歩に貢献しています。

それらを担っているのが、ニコンのヘルスケア事業部とニコンの子会社である株式会社ニコンソリューションズです。いまや顕微鏡や網膜画像診断機器などの製品販売に留まることなく、ニコンのコアテクノロジーである高度な光学技術と画像処理・解析技術を駆使したソリューション提供を通して、「モノ売りからコト売り」へのシフトによって人々のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)向上を支援しています。

あらためて今、ニコンはどのようなことに取り組んでいるか。細胞を用いた創薬研究の支援を行うNikon BioImaging Labにおいて開始している「臓器チップ撮影・解析受託サービス」とはどのようなものなのか。そしてニコンが目指す未来について、現場に近い立場で活躍されている株式会社ニコンソリューションズバイオサイエンス営業本部で創薬研究支援部長の宮本 健司さんと同営業本部でAE部東日本AS課長の徳永 和明さんに話を聞きました。

顕微鏡の提供に留まらない、用途支援への想い

――ニコンがヘルスケア領域で提供している価値について教えてください。

宮本:ニコンの事業領域にはカメラを取り扱う映像事業、半導体や液晶パネルの製造用の露光装置を取り扱う精機事業、光学素材・部品、光加工等を取り扱うコンポーネント事業、産業用の測定器等顕微鏡を取り扱う産業機器事業、眼底カメラや生物顕微鏡を取り扱うヘルスケア事業など多様な事業領域がありますが、100年以上の歴史があるニコンにおいて最も長い歴史を誇る製品は生物顕微鏡です。ニコンはこれまで、最先端の光学技術を駆使して、微細な構造物を、より高精細に見ることを可能にするという取り組みを通して、科学の進歩に寄与するという価値を提供してきましたが、今はさらにそこから一歩踏み込んでお客さまの「用途支援」によって、顧客課題の解決に貢献する、ソリューション提供に力を入れています。

1925年発売 ニコン設計による初の顕微鏡「JOICO(ジョイコ)」

AX / AX R with NSPARC(超解像共焦点レーザー顕微鏡)

――それが「モノ売りからコト売り」へのシフトということですね。課題解決のためにどのようなソリューションを提供しているのでしょうか?

宮本:例えば、製薬企業向けのソリューションのひとつに、臓器チップの撮像・画像解析サービスがあります。臓器チップは実験動物の代替手段のひとつとして注目されつつあります。ニコンは臓器チップメーカと連携して、各種臓器チップを生物顕微鏡で観察するノウハウを習得していて、臓器チップを利用して薬効や薬物の毒性を調べたいとお考えの製薬企業の皆様を支援しています。それから、再生医療分野向けのソリューションのひとつに、細胞培養プロセスにおける細胞観察装置や画像解析ソフトの提案があります。培養中の細胞を撮影して、その画像を解析することにより、培養されている細胞の状態を数値化することができ、客観的な指標をもって工程を管理することが可能になります。効率的な工程管理の実現に貢献することで、細胞再生医療に従事されている皆様の負担を軽減できると考えています。

客観的な指標による工程管理によって、安定した細胞培養が可能に

――細胞培養において、ニコンの技術はどのような面で役立っているのでしょうか?

徳永:大別して細胞の「培養」と「評価」、そして「解析」という、三つのポイントが挙げられます。

まず「培養」についてご説明します。バイオサイエンスの分野では、細胞や組織などの生物が対象であるため、実験に適した細胞が培養できているかがとても重要です。細胞培養の手順や留意事項は、細胞の種類によって異なり、各工程で、各細胞に応じた取り扱いをしなければ、細胞の特性が変化してしまうことがあるため注意が必要です。その難易度の高さからこれまでは、作業者によって操作にバラつきが生じていました。しかし先ほどお話ししたように細胞培養のプロセスを画像化することで、個人差によるバラつきを抑え安定した培養ができるようになります。今後は画像の撮影だけでなく、細胞の培養段階からお客さまをサポートしていく予定です。

宮本:次に「評価」と「解析」ですが、例えば、培養している細胞の増殖を確認したい場合、作業者が顕微鏡を使って、目視で細胞数をカウントして時間経過による細胞数の増減を比較したり、細胞が占める面積の時間変化を確認したりします。目視での評価の場合、同じ試料を見てAさんは「3割の増加」と判断するところ、Bさんは「4割の増加」と判断するかもしれません。工程管理の観点で考えるとき、このような個人差は最小化したいですよね。私たちは画像を撮影して、その画像を解析することによって、細胞数や細胞の占有面積、細胞の生死や特徴の変化などを客観的な数値として提示することで、作業者の労力の緩和と再現性のよい工程管理を支援したいと考えています。

――属人的な要素を排除して、客観的な指標が得られたということですね。

宮本:はい。そのように考えています。いまお話したことに加えて、客観的な指標を得ることは、工程管理の効率化のみならず、教育訓練にも貢献できると考えています。具体的には、研究員が目視で判断した細胞の増加率と、画像による定量解析の結果を照らし合わせることで、感覚と客観指標との間にどれだけの誤差が生じているのかが分かるので、「思ったよりも増えている。」と気付けたり、「以前にくらべて培養が上手くなった。」と成果を確認できたり、といったように教育訓練にも使えるわけです。

徳永:これは細胞を用いてワクチンを製造している企業様の事例ですが、ワクチンをつくる際には培養中の細胞を回収するタイミングがとても重要になります。従来はそれぞれの作業者が目視で判断してタイミングを見計らっていましたが、それだとどうしても品質にバラツキが出てしまいます。熟練作業者の技術をいかに引き継ぐかが課題となっていましたが、ニコンのソフトウェアを導入することで、誰が作業してもベストなタイミングで細胞を回収することができるようになります。

――熟練者の技術を誰もが持てるようになったことで、今後はどのようなイノベーションが生まれると予想しますか?

宮本:例えば、熟練者の少ない組織が、最新機器とソフトウェアの導入によって、機械のサポートを受け、作業者の教育訓練を効率的に行えるようになったり、それまで未導入だった細胞を使用する実験をしたりする事例が増えるのではないでしょうか。また、自動化装置の導入によって、作業者の労力を省力化することで、よりイノベーティブな業務に人の時間が使われるようになり、事業拡大に寄与したりする可能性があるのではないでしょうか。将来的にはニコンからもひとつのパッケージングされたシステムを構築するソリューションを提供することができれば、うれしく思います。“人と機械が共創する社会の中心企業”の実現はここでも進んでいくと信じています。

徳永:これまでは、経験則に沿った細胞培養ですが、デジタル化できれば人では困難な24時間の管理が可能になり、より安定した環境でより効率的な培養が実現します。これまでの経験に沿った細胞の品質管理が基準化されることで、世の中が求めるイノベーションを提供することができます。

動物実験の廃止にも貢献。SDGsにも資する「臓器チップ」の可能性

――「Nikon Bio Imaging Lab」について教えてください。どのような技術・サービスを提供しているのでしょうか?

宮本:日本における「Nikon Bio Imaging Lab」は、2022年5月に神奈川県の「湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)」内に開設しました。日本以外にもアメリカとオランダにもラボがあります。ここにはニコングループの顕微鏡を用いた細胞などの撮影を熟知している社員が常駐し、機材のセッティングから具体的な撮影方法についてまで、さまざまな視点からのアドバイスを行い、画像解析で課題を抱えるお客さまに対して最適なソリューションを提供しています。

弊社としてはさまざまなお客さまからお話を伺うことで、多くの企業が取り組まれている課題の傾向が把握できるというメリットがあります。ここでノウハウを蓄積して、さらに多くのお客さまにソリューションを提供していきたいと考えています。Nikon Bio Imaging Labを運営することでニコンという企業の信頼が上がり、後の製品購入にもつながってくるでしょう。

湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)

――ニコンが提供する「臓器チップの撮影や解析を受託するサービス」はなぜ必要なのでしょうか?

宮本:2030年までの達成を目指している持続可能な開発目標(SDGs)にも関連して、今、動物を使った実験を減らそうとする動きがあります。すでにEUでは化粧品の動物実験が禁止されていますが、医薬品業界では今でも薬の効果や毒性を確かめるための動物実験が行われています。すべての動物実験の廃止を実現していく上で、臓器チップは非常に有効な手段です。臓器チップは片手に乗るサイズの容器のなかで細胞を培養することによって、血管や神経といったひとの体を構成する器官の一部を再現したものです。ヒトのからだの器官の一部を再現した臓器チップに薬を投与すれば、薬効や毒性の評価の一部は実験動物を利用せずに調べることができるようになります。

すでに臓器チップはいろいろな場面で導入が進んでいますが、多種多様な臓器チップのなかからどのチップを選択するべきか決め兼ねている状況に置いて、いくつものメーカの専用の装置を導入するには高額な予算が必要となります。Nikon Bio Imaging Labでは、「お客様がどんな実験をしたいのか」をお伺いした上で、臓器チップメーカと連携して、お客様のご用途に適した臓器チップの撮影や解析に関するノウハウを提供させていただきますので、機器導入前の検討段階でご相談いただけますと、すぐに専用の機器を導入せずともいくつかの臓器チップの評価に着手していただくことができます。

お客さまとの「共創」で、社会貢献につながるソリューションを

――ニコンが「モノ売りからコト売り」へシフトすることで、どんな場面で社会に貢献できるのでしょうか?

宮本:ニコンがコト売りにシフトすることによって、画像の撮影や解析で悩みを抱えているお客さまに対して、製品をお届けするだけではなく、具体的な解決手段をご提案できるようになります。さらに、多くのお客さまと接する中で我々にもノウハウが蓄積されていきますので、より多くのお客さまの課題を解決できるようになるでしょう。そのようにして、社会に貢献できればと考えています。単純にニコンの製品を販売して終わりではなく、そこから一歩進んでお客さまの課題を解決するソリューションを提供していきます。

――製品を販売して終わりなのではなく、総合的な支援を提供できるようになるということですね。

宮本:お客さまからいただいた声は、新製品の開発にも反映されます。「ニコンの製品にどのような機能が望まれているのか?」「多くのユーザーはニコン製品のどこに難しさを感じているのか?」といった現場の生の声は非常に貴重です。新製品の開発においてはマーケターの市場調査も重要ですが、お客さまからのリアルな声には市場調査では見えてこない生のニーズが反映されているので、今後はそれらの声も活用していきたいと思います。

――今後の展望を教えてください。

宮本:コト売りに注力していく中で、これまで以上にお客さまと密な関係を築き「共創」を推進していきます。そうすることで魅力的な新製品はもちろん、多くの人々に役立つ課題解決のソリューションを数多く発信できるようになります。ニコンには「信頼と創造」という企業理念がありますが、今後もお客さまとの共創を進めながら信頼と創造を両立させたさまざまなアウトプットを提供してまいります。

※所属、仕事内容は取材当時のものです。